愛を教えて
シンデレラ気分で夢見心地のお嬢様を、ちょっとびびらせてやろう――その程度の悪戯心だった。
それなのに、どうやら万里子は本気であの冷酷極まりない男に惚れているらしい。


(信じられない! あの男のどこが『優しい方』な訳?)


あずさは食堂とは逆の方向に歩く。
彼女は卓巳の逆鱗に触れ、母屋の出入りを禁じられている。今日は給仕が足りないので、急遽手伝うように言われた。
もちろん、尚子が裏で手を回したせいだが。


(調子の狂う女よね、まったく!)


「なぁに、ブツブツ言ってんだよ」


あずさに声をかけたのは、卓巳の次に憎たらしい男、太一郎だった。



「なんだ、あんた家にいたの?」

「お前なぁ。太一郎様だろう? クビにするぞ」

「やってみれば? あんたなんか怖くないわよ」


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