愛を教えて
卓巳は一歩踏み出すと、両手で太一郎の襟首を掴んだ。

直後、いとこの体を壁に叩きつけていた。


壁にかかったシャガールが揺れ、落ちそうなほど傾く。

太一郎は振りほどこうと必死にもがいている。
身長、体重とも、太一郎のほうが卓巳よりひと回り大きい。体格差を考えたら、不利なのは卓巳のほうだ。
しかし、蜘蛛の巣にかかった羽虫のように、太一郎はみっともなく足掻いていた。


卓巳は表情を凍らせたまま、厳しい声で尋ねた。


「万里子に触れたのか?」

「ふ、触れたって……それは」

「万里子の唇に触れたのかと聞いてる」


卓巳は両腕に体重をかけた。
太一郎は首を圧迫され、ひき蛙のような声を上げる。


胸の奥がヒリヒリと痛い。
ドライアイスに触れて、火傷するような冷気を感じる。痛みは怒りとなり、卓巳の中に凶悪な感情がこみ上げた。

このまま、太一郎の息の根を止めてしまいたい、というような……。


「ま、待てよ……してない。キスしてない。しようとしただけ……」


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