愛を教えて
(何を馬鹿な。そんな真似は決してしないと誓っただろう!)


それは万里子の信頼を損ねる行為だ。

しかし、考えてみれば、万里子はすでにキスどころかセックスまで知っている。その事実が卓巳の胸に重く圧しかかった。


万里子の身体に触れた男がいる。
この世でただひとり、万里子から愛された男が。

それは卓巳ではなく、この先も彼にチャンスが回ってくることはない。
祖母をはじめ、多くの人間を騙して卓巳が手に入れられるのは――わずか二年、万里子を妻と呼ぶ権利。


卓巳にとって眩暈を覚えるほど幸福なことだと、ほんの三十分前は思っていた。


だが、太一郎がすべてをぶち壊した。

感情を伴う男女の間には、避けられないこととしてセックスが存在している。
卓巳には決して踏み込めない一歩。なのに、万里子の存在は卓巳にそこまで進ませようとする。

太一郎を羨ましいと思うなど……愚の骨頂だ。

万里子を求める思いは罪以外のなんでもない。


――万里子とは距離を置かなければならない。


罪を犯せない苦しさが、卓巳から愛を遠ざけた。


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