愛を教えて
口ごもる万里子に卓巳の邪推は止まらなくなった。
太一郎が刺激した部分を、卓巳は自ら煽り立て炎上させてしまう。


「そんなつもりもないのに男と寝たのか? 男は四年前の一度きりだと言ってたな。一生に一度のセックスはどうだったんだ? 君の言葉を信じるなら、ただ一度で子供が授かるほど深く愛し合ったんだろう!?」


しだいに早口になりながら、卓巳の言葉は万里子を責めるものに変わっていく。


「それほどまでに深く抱き合いながら、結婚も考えずに、子供を殺したのはなぜだ!? ――僕は、君だけは妊娠させない。させたくない!」


自覚したばかりの恋情が、卓巳の胸で嵐を巻き起こした。
それはコントロール不能のまま、万里子に襲いかかる。

ほんのわずか……万里子から離れよう。一歩だけ後退するつもりが、卓巳は力いっぱい、万里子の心を突き飛ばしてしまっていた。


ハッと気づいたときには後の祭りである。
万里子は悲しげな笑みを浮かべ、卓巳を見つめていた。


「それ以上おっしゃらないでください。よく、わかっています。だって、私には触れたくないし、触れるつもりもない。そういったことは一切ないというお約束で、私はサインしたんですから」

「……ああ……そうだったな。僕はどうも、両親のことを言われるとナーバスになるようだ。すまなかった」

「いえ。私も余計なことを口にしました。どうか……忘れてください」



万里子には何を言われてもナーバスになる。


――本当の障害は、周囲の反対ではないのかもしれない。


卓巳はこの恋の困難さをあらためて思い知った。


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