愛を教えて
会話が途切れ、気まずい沈黙が部屋全体に広がる。
そんな中、口を開いたのは卓巳が先だった。


「少し、工作をしておこうか……万里子、こっちに来てくれ」


卓巳は寝室に繋がる真新しいドアを開け、万里子を誘った。

リビングと寝室の間にはスペースがあり、左手にはバルコニーに出られるドアがある。
部屋で寛ぐことの少ない卓巳には、ほとんど使ったことのないドアだ。

右手側にあるアーチ型のドアは洗面所に繋がっている。トイレとバスルームがあり、そこは寝室からも直接出入りができるようになっていた。


寝室で目につくのは、中央に置かれたダブルベッドだろう。
ベッドの向こう、右手奥のドアは六畳ほどのウォークインクローゼットに通じている。

卓巳はCDをセットすると、スーツのジャケットを脱ぎ、ソファの背もたれにかけた。
次いでネクタイを緩めてYシャツの第二ボタンまで外し、ダブルベッドにドサッと腰を下ろす。


直後、部屋にはパッヘルベルのカノンが静かに流れ始めた。
クラシック音楽など聴いたこともなかった卓巳だが、ある理由から、最近お気に入りになった曲だった。


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