愛を教えて
「あの、私は何をすれば……」


さっきのやり取りを気にしているらしく、万里子の表情は硬い。

だが、彼女は卓巳の脱ぎ捨てたジャケットを手にすると、ハンガーを見つけ、壁際のフックに吊している。

ホテルの部屋でも同じことをしていた。
そんな彼女に、『慣れてるんだな』と、つい嫌味を言ったことがある。
しかし、『父がすぐに脱ぎ捨てるんです』そう言って万里子は笑った。
見当違いの嫉妬心だったが、万里子には気づかれなかったようで、卓巳はホッとしたのを覚えている。


「そうだな、まず、ここに来て横になってもらおうか」

「え? えっ……あの」


卓巳は当然のようにベッドを指差した。
万里子は何を想像しているのか、青くなったり赤くなったりしている。


「いや、そうじゃない! ジャケットはそこにかけたらいい、シワになると困るだろう。ワンピースは……脱ぐという訳にはいかないか」

「脱ぐなんて、そんなこと」

「だから、そうじゃないと言ってるだろう。ベッドを使った形跡を残しておきたいだけだ。君の髪がシーツの上に数本落ちていたら、掃除に来たメイドが、すぐに広めてくれるだろう」


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