愛を教えて
卓巳はそんな不埒な思いに囚われていた。

それが犯罪で、万里子の信頼を損ね、一生許されない罪だとわかっていても。

卓巳の性衝動は限界に達しつつあった。



「卓巳さん……あの、いつまで、こうしてればいいんでしょうか?」


カノンが余韻を残しつつ静かに終わる。

卓巳が上を向いたのと同時に、万里子は彼に背を向けた。

彼女はおそらく、卓巳の邪な思惑など想像もしていないだろう。その無防備な細い肩に、どうしても触れたくなる。
そうっと手を伸ばした瞬間、スピーカーから軽快なメロディが流れ始めた。

パッヘルベルのカノンと対になるジーグだった。

その音にビクッとして卓巳は慌てて手を引っ込める。


(クソッ! なんてザマだ)


自分で自分が情けない。
卓巳は理性を総動員して、体内に目覚めた獰猛な野獣を叩きのめし、屈服させた。

彼女に気づかれる前に、卓巳の本性を悟られる前に、その一念で……。


< 194 / 927 >

この作品をシェア

pagetop