愛を教えて
ネットで読める様々な記事に目を通すと、先代社長は経営者として優秀ではあるものの、かなりワンマンだったらしい。急

死によりグループは要を失い、崩壊寸前に追い込まれた。そこを、弱冠二十三歳の卓巳が見事に立て直した。祖父譲りのカリスマ性を持つ“冷静・冷徹・冷酷”な『氷のプリンス』、あるいは『祖父のコピー』と皮肉られている。

マスコミは卓巳に好意的ではないようだ。


とんでもない男性と関わってしまった。

それが万里子の正直な感想である。

何らかの事情で結婚を急ぐ彼は、渋江経由で千早物産の窮状を知ったのだ。卓巳は渡りに舟と、万里子に白羽の矢を立てたのであろう。



父の前で卓巳のことは話せない。

親しげに話しかけてくる弘樹に笑顔で答えながら、万里子はパーティの主役である渋江がひとりになるタイミングを見計らっていた。

まだ、渋江邸に卓巳の姿はない。



「お久しぶりです。おじさま……昼間は失礼いたしました」


渋江は来年の三月で頭取を退き、そのまま名誉職の会長にスライドすることが決まっていた。

彼は経済界に持つコネクションを、自分の力が及ぶうちに、息子に継がせたいと必死なのだ。

そんな噂は万里子の耳にまで届いていた。


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