愛を教えて
卓巳の声は自虐的に聞こえる。だが、過去の経験とそれを乗り越えた強さが、彼の自信に満ちた態度、アイデンティティーになっているのだ、と知る。


「呆れただろう? コレが、アルマーニのスーツを着て、BMWに乗り、社長と呼ばれている男の正体さ。叔母の言ったとおり乞食同然に生きてきた」

「そんなこと……そんなふうには言わないでください」

「こんな男の妻と呼ばれるのはイヤかもしれない。だが、ここで君に逃げられたら僕はお手上げだ。君との関係が身体や愛情ではなく、契約書で繋がっていると知られてもアウトだ」


卓巳は両手を広げ、肩を竦めて見せた。


「でも、卓巳さんがいなくなったら会社が困るんじゃないですか? 二十代で巨大グループを纏め上げた手腕とか、そのカリスマ性とか、あちこちにたくさん書いてあるのを読みました!」


万里子は必死になって言い募った。


「もちろん困るだろうな。あの太一郎じゃ、三日で本社が傾く。だがまあ、それもいいかもしれない。祖父もそれを望んでいたんだろうから」

「そうなったら……おばあ様が悲しまれます」


すると、卓巳はフッと意地悪そうな笑みをこぼした。


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