愛を教えて

(8)愛の証明

「皐月様、皐月様っ! お聞きになりましたかしら!?」


エントランスホールから向かって左にあるオープン階段の下を抜け、廊下の突き当たりに十畳程度のガーデンルームがある。
この邸のサイズから考えれば小さなものだ。足腰の弱くなった皐月のために、作られた場所だった。


万里子は帰る前に、皐月の元に立ち寄り挨拶をするはずだ。そのときに、しっかりと見極めなければならない。
卓巳に対する思いが真実なのか。
彼女の無垢なまなざしに、皐月自身が惑わされていないかどうか。


先ほどまで外は風が吹いていた。裏庭の木々も激しく枝を揺らし、葉を散らした。しかし、陽射しは暖かく、テラスの中はまるで春の陽気だ。

メイドの根元千代子が、紅茶をポットで皐月の元まで運び、丁寧にティーカップに注ぎ込む。
フルーツが描かれたお気に入りのティーカップを手に取り、皐月が口元まで運んだとき、尚子が血相を変えてやってきたである。


「どうしたのです、尚子さん。そんなに慌てて……」

「どうもこうもありませんわっ! 卓巳さんたら、あの女を部屋に連れ込んだまま、一向に出てこないというじゃありませんか!? しかも……しかも、ですわ。寝室に鍵をかけて、ふたりで閉じこもったままなんて!」

「まあ、本当ですの、お姉様? まだこんな日の高いうちから。卓巳さんも何を考えておいでなのかしら?」


尚子の後ろから入ってきた和子がわざとらしく驚きの声を上げる。


「あの女も純情そうな顔をして、よくもこんな……。先ほどの太一郎さんのことも、あの女が誘ったのに違いありませんわ! よろしいんですのっ!? 皐月様がお許しになる前に、こんな勝手な真似をさせておいて」


< 207 / 927 >

この作品をシェア

pagetop