愛を教えて
「……は、い……」


万里子は震える指で卓巳のジャケットの袖を握り締め、驚きの言葉を口にしたのだ。


「はい。――私は、結婚前でありながら、卓巳さんの愛を受け入れました。申し訳ございません」


指だけでなく、声も身体も震えていた。
衆人環視の中、卓巳との婚前交渉を認め、軽はずみな行いを謝罪したのだ。
深々と頭を下げる万里子が目に映った。

そのとき、卓巳のプライドを守ってきた氷の鎧が粉々に砕け散る。


「彼女のせいじゃない! 僕が強引に関係を迫ったんだ。彼女に一切の責任はありません! 万里子は何も知らなかった。それをいいことに、付け込んだのは僕なんです!」


卓巳の叫び声にガーデンルームにいた全員が呆気に取られる。

彼は更に皐月に向き直ると、


「どうか、彼女のことを浮ついたふしだらな女だとは思わないでください。打算や遊びなんかじゃない! お互いを生涯の伴侶と思っての行為です。彼女は僕の母とは違うし、僕も父や祖父とは違う!」


< 213 / 927 >

この作品をシェア

pagetop