愛を教えて
「ねぇ、万里子さん」

「――はい」


卓巳の様子を窺い、そわそわする万里子に気づいたのだろう。皐月から話しかけてきた。


「聞いておられるでしょうけど、わたくしの心臓はそう長くは持たないのです。おそらく、あと一年も……」

「そんなこと、おっしゃらないでください!」

「そうですよ。おばあ様にはもっと長生きしていただかないと」


車椅子を押す手を止め、卓巳も声をかける。


風が万里子の柔らかい髪をそよがせた。
ガーデンルームは暖かかったが、外に出て風に当たると少し肌寒い。皐月の足からずり落ちそうになるひざ掛けに気づき、万里子は慌てて手を差し伸べた。

皐月は万里子に礼を言い、ゆっくりと話し始める。


「そのことはもう……。それより、あなたがたに聞いていただきたいことがあるのです」

「なんでしょうか?」


聞き返す卓巳の声に、先ほど叔母たちの前で見せた緊張の色はなく、いつもの彼に戻っていた。


< 223 / 927 >

この作品をシェア

pagetop