愛を教えて
「おばあ様、卓巳さんの近くには、素敵な女性がたくさんいらっしゃいます。いつか、私など必要なくなる日が来るかもしれません。でも、卓巳さんに望まれる限り、おそばにいることを約束します」


万里子の言葉を受け、皐月は愉快そうにうなずく。


「ええ、ええ。藤原家の男性は、揃って女性にだらしないのです。あなたという妻を得た途端、本性を出すやもしれませんね。充分に手綱を締めておかないと」


皐月は若やいだ声で笑った。


「それは、あんまりですね。僕は誠実な男です。神前の誓いを破ったりはしませんよ。何度も言うようですが、万里子は僕にとって生涯ただひとりの妻です」


ごく自然な動作で、卓巳は万里子の肩に手を回し、抱き寄せた。

それは手を繋いだとき以上の近さだ。
戸惑いとともに、万里子は卓巳の顔を見上げる。その瞬間、ふたりはお互いの瞳に囚われたかのように、見つめ合った。



「ああ、忘れていました。万里子さんにこれをお渡ししないと」


皐月はにこにこしながら、自分の指からエメラルドの指輪を外し、万里子に渡した。


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