愛を教えて
「これは、わたくしがこの家に嫁ぐとき、母から譲り受けたものです。娘に、と思っていましたが……。息子の嫁にはどうしても渡す気にはなれなかったの。万里子さん、受け取ってくださるかしら? そしていつか、卓巳さんの娘か息子のお嫁さんに……」


悪気のない皐月の言葉に、万里子の心は軋むように痛んだ。


「卓巳さん、ボンヤリしていないで、万里子さんの指にはめておあげなさい」

「あ……いえ、あの」

「いいんだ、万里子。受け取って欲しい」


卓巳は万里子を真っ直ぐに見つめ、左手を取って薬指に指輪を押し込む。それはあつらえたようにピッタリだ。

指輪が薬指にはまった瞬間、万里子の瞳からハラハラと涙がこぼれ落ちた。


「万里子……どうした?」

「幸せで、あまりに幸せで、それだけです。……ごめんなさい」


嘘ではない。
自分のものでない幸福に、万里子は“喜び”と“悲しみ”の涙が止まらなかった。


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