愛を教えて
「大奥様、風が出て参りました。そろそろ中へ戻られませんと」


大きい声で呼びかけながら、母屋のほうから千代子が小走りで近づいた。


「そのようですね。では、万里子さん。お式は卓巳さんと色々相談して、十一月中がよろしいかしら。ただ、入籍は早めにお済ませなさい」


「まあ! では、お決まりですのね。おめでとうございます、卓巳様。確かに、ご結婚は早いほうがよろしいですわ。花嫁さんのお腹が大きかったりしては、逆に文句を言いかねませんもの」


尚子たちの住まいがある裏の別棟に視線をやり、千代子は憎々しげに言った。
よほど馬が合わないらしい。


「ああ、わかってるよ、千代子さん。心配は無用だ。では、彼女を送って参ります」

「おばあ様、どうもありがとうございました。末永く、よろしくお願いいたします」


万里子は深く頭を下げた。
そして、卓巳と寄り添いながら、芝生の上を歩いて行く。並んだふたりの背中を、皐月は万感の思いで眺めていた。


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