愛を教えて

――万里子には笑顔がよく似合う。ずっと笑顔でいて欲しい。万里子の笑顔を守るためなら、どんな犠牲も厭わない。


それが卓巳の本音である。


（そんな歯の浮くような台詞が僕に言えるものか）


仕事以外でこんなに長い時間、女性と一緒にいたのは初めての経験だ。
卓巳は本音を伝えることは諦め、理詰めで説得することにした。


「だから、それをはめてニッコリ笑って見せれば、お父上も安心するだろう？」

「それは……そうですけど。父も今朝は随分心配していました。電話で結婚のお許しをいただけた、と伝えたら、とても喜んでくれましたし。この指輪を見せて、おばあ様からいただいた婚約指輪だと言えば」


そのとき、万里子は窓の外をじっと見つめた。
ようやく気づいたらしい。


「あの、卓巳さん。私の家に送ってくださるんですよね？　でも、道が違うような」

「ああ、区役所に行く」

「でも、もう夕方の五時を回っていますよ」

「心配はいらない。婚姻届は二十四時間、休日も関係なしに受理してくれる」

「え？　ええっ！？　今からですか？」

「なるべく早く、と言われただろう？」