愛を教えて

(1)素敵なプレゼント?

「新作の映画も揃えてある。それに、君が見たいと言っていた『ローマの休日』も。このまま、一緒に見ないか?」

「でも、もうすぐ十時ですし。映画だと二時間はかかるでしょう? 帰るのが零時を回ってしまいます」

「なら、無理に帰る必要はないだろう? ベッドも二台あるんだ。越境はしないさ」

「でも……父が」

「無理にとは言わない。どうしても、イヤだと言うなら送って行こう」

「イヤだなんて。あのひとつだけお願いがあります」

「なんだい? なんでも言ってくれ」

「父に、卓巳さんから電話してくださいますか?」

「……わかった」


と、いった会話が挙式前の二週間、デートのたびに繰り返されていた。


卓巳は誠実で真面目な人間だ。
そして、とてもわかり難い優しさしか示すことができず、世間の評判や洗練された容姿とはかけ離れた男性だった。


彼が万里子に、何も贈り物をしていない、と気づいたときもそうだった。

万里子の持つ、数少ないブランド品のひとつが、かなり使い古されたボストンバッグだと知るや否や、同じブランドの新作バッグをすべて贈ったのだ。

万里子は首都高速を連れ回されたときのことを思い出し、呆然とした。

プレゼントを使わないのは失礼だと思い、卓巳に理由を説明した。
ボストンバッグは母の形見。どれほど傷んでも修理して使うつもりだ、と。

万里子は高価な品物に興味がないと知り、卓巳は肩を落としていた。


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