愛を教えて
万里子は今でも、あの夜に受けた身体の痛みで、泣きながら目覚めることがあった。

卓巳にとって諸悪の根源と心の深層に刷り込まれた行為。
それは万里子にとって、苦痛と屈辱の忌むべき行為だ。

それでも万里子には卓巳と違うところがあった。

彼女はそれが、誤った認識だと知っている。
愛し合うふたりの間にあるセックスは、暴力ではない、と。

だが、頭で理解していても心が受け付けない。

卓巳を愛するがゆえに、彼にだけは抱かれたくない、そう思ってしまうのだ。


(……これ以上、穢れるのはイヤ……)


卓巳が万里子を侮辱したのは、自らを戒めるため。

しかし、卓巳の劣情を知らない万里子にとって、それは魔女の呪いのように、彼女の心を縛ったのである。


それでも、少しずつゆっくりと、ふたりに距離は確実に縮まっていた。


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