愛を教えて
「大学の先輩で藤原卓巳さんとおっしゃるんだ。あの藤原グループの社長だよ。マリちゃんも藤原グループは知ってるだろう?」

「ええ、それは……もちろんです」

「正直に言うと“はじめまして”じゃないんですよ。万里子さん」


突然何を言い出すつもりだろう?

万里子には卓巳の真意がわからず、口を開くことができない。


「そうそう、春に日比谷で劇場のオープニングセレモニーがあったのを覚えてる? 藤原先輩はそのパーティで君に会ったそうだよ」


おそらく、弘樹は何も知らないのだ。屈託ない笑顔で卓巳の代わりに説明してくれる。

だが、万里子には何の記憶もないことであった。それが事実なら、どうして昼間に話してくれなかったのだろう。


「すみません、私には……ちょっと」

「そうでしょうね。挨拶をする前に、スカートが汚れてあなたは帰ってしまわれた」

「え? 見てらしたんですか?」


こけら落とし公演終了後のパーティは盛大なものだった。
数百人が集う中、パーティが始まってすぐに小さなトラブルが発生した。ウエイトレスがよろけて、トレイごとシャンパングラスを落としたのだ。それは万里子を含め、近くにいた数人の客に掛かった。立腹して大騒ぎする女性客もいた。

確かに、これからというときに衣装を汚されては、怒りたくもなるだろう。

ウエイトレスは経験の浅い学生アルバイトのようだった。


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