愛を教えて
(まるで、ご自分の部屋のようだわ)
自室に卓巳とふたりきり。
どこか落ちつかない万里子に比べ、卓巳の態度はあまりに自然で和やかだ。しかも、彼の表情は藤原邸に居るときより寛いで見える。
「藤原家に入るまで、ナイフやフォークの使い方も知らなかった。スーツもリクルート用の一着のみで……。そのころかな? 午餐会に招待され、正装と言われて燕尾服を着て行き、笑われたことがあったよ。叔母が用意してくれたんだが、疑いもしなかった。――僕は決して上流階級の人間じゃない。呆れたかい?」
万里子もストンとソファの隣に座り、「いいえ」と答えて微笑んだ。
「こう見えて料理は得意だ。フレンチやイタリアンは無理だけど、野菜炒めやチャーハン、魚もさばける。今度、アジを三枚におろしてみようか?」
卓巳の言葉に、ふたりで顔を見合わせ、声を立てて笑った。
しかし、次の瞬間、卓巳が真顔になり……。
万里子は心ではなく、体の距離が縮まるのを感じ、弾かれるように立ち上がる。
「あのっ! 何か、飲み物をお持ちしますね。あの、お酒は?」
「ああ、もう充分だ。コーヒーでももらえるかな?」
「はい。あの、ドライヤーはここに。髪を乾かしておいてください。風邪をひいたらいけませんので」
「わかった。君の戻る前に済ませておこう」
「お願いします。……じゃあ、コーヒーを淹れてきますね」
自室に卓巳とふたりきり。
どこか落ちつかない万里子に比べ、卓巳の態度はあまりに自然で和やかだ。しかも、彼の表情は藤原邸に居るときより寛いで見える。
「藤原家に入るまで、ナイフやフォークの使い方も知らなかった。スーツもリクルート用の一着のみで……。そのころかな? 午餐会に招待され、正装と言われて燕尾服を着て行き、笑われたことがあったよ。叔母が用意してくれたんだが、疑いもしなかった。――僕は決して上流階級の人間じゃない。呆れたかい?」
万里子もストンとソファの隣に座り、「いいえ」と答えて微笑んだ。
「こう見えて料理は得意だ。フレンチやイタリアンは無理だけど、野菜炒めやチャーハン、魚もさばける。今度、アジを三枚におろしてみようか?」
卓巳の言葉に、ふたりで顔を見合わせ、声を立てて笑った。
しかし、次の瞬間、卓巳が真顔になり……。
万里子は心ではなく、体の距離が縮まるのを感じ、弾かれるように立ち上がる。
「あのっ! 何か、飲み物をお持ちしますね。あの、お酒は?」
「ああ、もう充分だ。コーヒーでももらえるかな?」
「はい。あの、ドライヤーはここに。髪を乾かしておいてください。風邪をひいたらいけませんので」
「わかった。君の戻る前に済ませておこう」
「お願いします。……じゃあ、コーヒーを淹れてきますね」