愛を教えて
(……ヤバイ……)
万里子が部屋を出ると同時に、卓巳は大きくため息をついた。
右手で前髪をクシャクシャッとかき乱す。
あのまま、万里子を抱き寄せ、唇を重ねてしまいそうだった。
卓巳の胸に自己嫌悪の嵐が吹き荒れる。
実を言えば、部屋中の賞状や写真を見て回ったことにも理由があった。
万里子が恋い焦がれる、四年前の男の痕跡を見つけようとしたのだ。
机には入園式以外の写真も飾られている。だがそこに、若い男の姿はない。
写真の中に、笑顔の万里子がたくさんいる。
見ているほうも、思わず笑みが零れてくる幸せに満ちた顔だ。
卓巳には子供のころの写真は一枚もない。動物園にも遊園地にも、一度も連れて行ってはもらえなかった。
彼の両親は、『子供にとって、いないほうがいい親もいる』という見本。
「お待たせしました。昼間に焼いたマドレーヌもお持ちしたんですけど。卓巳さん、甘い物はお嫌いですか?」
「そうだな。あまりた……た、食べたことがないので、好きか嫌いかわからないんだ。もちろん、いただくよ」
万里子が部屋を出ると同時に、卓巳は大きくため息をついた。
右手で前髪をクシャクシャッとかき乱す。
あのまま、万里子を抱き寄せ、唇を重ねてしまいそうだった。
卓巳の胸に自己嫌悪の嵐が吹き荒れる。
実を言えば、部屋中の賞状や写真を見て回ったことにも理由があった。
万里子が恋い焦がれる、四年前の男の痕跡を見つけようとしたのだ。
机には入園式以外の写真も飾られている。だがそこに、若い男の姿はない。
写真の中に、笑顔の万里子がたくさんいる。
見ているほうも、思わず笑みが零れてくる幸せに満ちた顔だ。
卓巳には子供のころの写真は一枚もない。動物園にも遊園地にも、一度も連れて行ってはもらえなかった。
彼の両親は、『子供にとって、いないほうがいい親もいる』という見本。
「お待たせしました。昼間に焼いたマドレーヌもお持ちしたんですけど。卓巳さん、甘い物はお嫌いですか?」
「そうだな。あまりた……た、食べたことがないので、好きか嫌いかわからないんだ。もちろん、いただくよ」