愛を教えて
十一月半ば、藤原邸の広大な裏庭で、ガーデンウエディングが行われようとしていた。

簡易式のチャペルも用意され、当然、牧師も待機している。


「万里子、用意はいいか? もう、始まるぞ」

「あ! 卓巳さん……どうですか? 母のドレスを手直しして、昨日仕上がってきたんです」


そう言って幸せそうに笑う万里子は、純白のウエディングドレス姿でクルッと回った。

卓巳は息を飲んで立ち尽くす。
そんな卓巳の背後には、メイドの和田雪音《わだゆきね》が不満そうな顔で立っていた。


「だから、花嫁の控え室には入らないでくださいって言ってるのに……」


雪音はボソッと呟く。
卓巳はさっきから何度もやって来て、そのたびに、雪音に迷惑そうな視線を向けられていた。
西洋では、結婚式の前に花嫁と顔を合わせたり、ドレス姿を見たりするのは縁起が悪い、とされる。
しかし今回、それは関係なかった。
ウロウロされると仕度の邪魔になる、という明快な理由だ。


雪音は卓巳の部屋付きメイドで、真っ黒いストレートの髪を、いつもひと纏めにしている。
コンタクトが合わない体質だと言って眼鏡をかけ、メイクも必要最低限。言葉遣いはお世辞にも丁寧とは言えず……。
だが、太一郎の手が付いておらず、尚子の息もかかっていないメイドは貴重だ。

卓巳自身が雪音を自分の担当に指名し、今日からは夫婦の担当になることが決まっている。

万里子とは同じ歳なので話も合うに違いない、という卓巳の配慮だった。


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