愛を教えて
しかし、そんなふたりの様子を見ながら、呆れている人間が約一名。
卓巳の秘書、宗行臣であった。 


宗は当事者以外で契約書の存在を知る唯一の人間。


――さぞや殺伐とした結婚式になるだろう。


計画したとき、彼はそのことを心配していた。
ところが現実は、予想外の事態になっている。

人前では仲のよい夫婦を演じる、というのは契約だ。しかし、人前でなくとも仲がよい、いや、良過ぎるというものだろう。

入籍の準備はかなり早いうちから進められていた。
そうでなければ、皐月から結婚の許可を得て即日入籍など無理というものだ。

それにより、相続の条件は満たした。

デートの芝居は必要なくなった。にもかかわらず、入籍後もふたりは毎日会っている。


(同じ部屋で寝起きする前に陥落したってことか?)


宗は嫌味のつもりで卓巳に確認した。


「社長、ベッドサイドに避妊具を用意しておきましょうか?」

「不要だ。言っただろう、私はそれほど意志の弱い男ではない。だが、まあ、万一の場合でも特に必要ない。彼女は私の妻だ」


卓巳の返事に宗は唖然とする。

そして駄目押しは、契約書の別項を完全に削除したことだった。


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