愛を教えて
「ふい打ちは、止めてくださいね」

「それは……事前に言えばOKってこと?」

「それは」

「キスしていいかい?」


卓巳のフロックコートの胸辺りに万里子の手が置かれた。
そのまま、彼女は卓巳に身体を預け、かすかにうなずき目を閉じる。


二度目のキス。


柔らかい唇が重なり、それはまるで、ふたりの人生が重なった証のようだった。


無味乾燥な控え室が、一瞬で楽園の空気に満たされる。

結婚式当日に初めて花嫁にキスをして、それが受け入れられた喜び。

卓巳は、人生で初めて味わう極上の幸せに酔いしれていた。



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