愛を教えて
「昔、俊介さんに憧れていたことはありました。でも……それだけ、です。私は今日、神様の前で誓ったんです。あなたの妻になる、と。それなのに、どうしてそんなことをおっしゃるんですか?」


目に涙をいっぱい溜めて、万里子は卓巳を見上げていた。
その潤んだ瞳を見ていると、愛しさのあまり胸が張り裂けそうになる。


そんな少女時代の憧れだけで、万里子はあの男に抱かれたのだ。

若気の至り、愚かな行為かもしれない。だが、悪い男の手管に乗せられたのだ。いかに清廉な万里子でも、魔が差すこともあるだろう。

卓巳は必死に、そう思い込もうとしていた。


「卓巳さん。何か……おっしゃって」


万里子の縋るような声に、卓巳の自制心など地球の裏側まで飛び去った。
そのまま万里子の髪に触れ、一気に引き寄せる。

そして、唇を重ねた。


(奴にも許したのか、この唇を。この肌に奴の手が触れ、舌先でなぞり、最後にはあの男の!)


次の瞬間、固く閉じた唇がわずかに開き、万里子は卓巳の舌を受け入れた。


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