愛を教えて

(9)愛の告白

万里子は固く目を閉じていた。


――卓巳を見てはいけない。


呪文のように心の中で唱え続ける。
そのとき、万里子の頬に触れる、卓巳の手を感じた。


(また、キスされるの?)


卓巳が好きだと、隠し切れない思いが万里子を罪に貶めているのだ。
万里子はソファに横たわったまま唇を噛み締めた。

だが、どれほどの時間が過ぎても、卓巳の唇は下りてこない。

その代わり、温かいものが頬に落ち、万里子はそっと目を開ける。


すると、見下ろす卓巳の瞳から涙が零れ落ちていた。


「すまない。こんなに傷つけていたなんて知らなかった。本当は違うんだ。あの男を見て欲しくなかった。君がどれほど苦しんで後悔しているか……だからもう、奴には近づいて欲しくなかった。君には僕がいる、僕のことだけを見て欲しいと……それだけだったんだ」


卓巳は強く、それでいて、万里子を気遣いながら抱き締めた。


「ごめん……君を愛してる。それが言いたくて言えなくて……でも、愛してる、君だけだ。ずっと妻でいて欲しい、愛してるんだ」

「嘘……信じない。嘘よ……どうして? どうしてそんなことを言うの? 私が、言わせてるの……あなたのことを誘ってるの?」

「違う! そうじゃない。誘っていたのは君じゃない。入籍を急かせ、家にも帰さず、毎日無理を言ったのは僕のほうだ」


< 317 / 927 >

この作品をシェア

pagetop