愛を教えて
「卓巳さん、ごめんなさい。私、今は言えない……言いたくないの。ごめんなさい」

「言えないことなら僕にもある。多分、君も察してるとは思う。でも、まだ、僕の口からは言えない。もう少し時間が欲しい」


千早物産が危機にある、と嘘をついたことも詫びなければならない。

だがそれ以前に、皐月が叔母たちに見せた報告書が偽物であること。卓巳には、通常の夫婦生活を送ることができない、という事実も伝える必要があった。

そして、卓巳がそこまで追い詰められた理由も……。


卓巳の沈黙をどう捉えたのか、万里子は不安そうに言葉にする。


「私には自信がありません。あなたを愛する資格も、あなたに愛される資格もないのに……」

「万里子、人を愛するのにどんな資格が必要なんだ? 過去の過ちはひとつも許されないのか? 例えどんな告白を受けても君への気持ちは変わらない。君が人を殺したと言われても、実は月から来たと言われても、だ。君が月に戻るというなら、僕も付いて行くよ。もう嘘はつけないし、つきたくない。愛してるんだ」


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