愛を教えて

(10)命の限り

この日は卓巳にとって記念すべき一日だった。

彼は三十回目にして初めて、自分のためだけにケーキを焼き、誕生日を祝ってもらえる。
できる限り早く万里子の元に戻りたい。

だが、最高の日にするためにも、どうしても、ハッキリさせておかなければならない問題がある。


卓巳は仕事を終えると藤原邸には戻らず、万里子の実家を訪れた。


「すまないね。日曜の、こんな時間に押しかけてしまって」

「いいえ、とんでもございません」


千早家の家政婦である忍は、実に晴れやかな笑顔で卓巳を迎えてくれた。


「あと一時間もしましたら、旦那様もゴルフから戻られると思うのですが。ああ、そうですわ! 万里子様から伺いました。お誕生日おめでとうございます」


忍は象嵌入りの天板に、音を立てずソーサーに乗せたコーヒーカップを置いた。
液体の表面がかすかに揺れるのみ。
同じことを藤原家の若いメイドに頼むと、ソーサーにまでコーヒーを入れて客に出してくれる。
行儀見習いにでも寄越そうか、と卓巳は本気で考えたくらいだ。


「ありがとう。万里子とは、よく連絡を取っているのかい?」

「お父様がご心配なのでしょう、二日に一度はお電話をかけて来られます。ここ数日はとても弾んだお声で。今日は卓巳様のために、ケーキを焼かれるとか」


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