愛を教えて
四年前、軽井沢の別荘で起こった悲劇。
それは、人間の皮をかぶった二匹の獣が、最愛の女性からすべてを奪いつくした真実だった。


知らず知らずのうちに、卓巳は拳を握り締めていた。
どんなことをしても見つけ出し、社会的に抹殺……いや、文字どおり抹殺してやろうか、と思ったほどだ。

だが、忍の言葉に、卓巳の意識はそちらに向いた。


「わたくしさえ、もっとしっかりしていたら……そうすれば、お身体に傷が残ることもなかったのです。それが悔やまれてなりません」


(身体に傷? 傷跡か?)


医者を抱き込めなかったせいで、カルテは手に入れられなかった。
そのせいで、万里子の後遺症は卓巳には初耳だ。

聞いてはいけないことのような気もした。だが、卓巳は悪いと思いつつ、忍を誘導尋問にかける。


「あれは、君のせいじゃない。後遺症は医者の責任だ」

「いいえっ! 堕胎可能なギリギリの週数まで気づかなかった、わたくしの責任です。それに、もっと大きな病院で手術を受けていれば。そのせいで……もう、お子様が望めないかもしれないなんて」


卓巳はショックを受けていた。
だがそれを顔に出さないよう、必死で押し隠す。

忍に、自分が卓巳にばらしてしまった、と悟られるわけにはいかない。


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