愛を教えて
「もし、あのことが原因で、お嬢様が命を絶たれるようなことになれば……。わたくしは、無断で息子の名を書いたと告白して、お嬢様のお供をしようと思っておりました」

「なぜ、そこまで万里子のことを……」

「四つのときからずっと母代わりで面倒を見させていただきました。お腹を痛めた我が子同然でございます。それを……あんな……わたくしさえ、あの連中と刺し違えていれば……」


忍はギリギリと奥歯を噛み締める。言葉にするだけで憎しみが滾るようだ。

だが――いきなり床に座り込むと、卓巳の膝に取り縋った。


「あれ以来、どこか悟り切ったように生きておられました。そのお嬢様が、卓巳様とお戻りになった朝だけは違いました。少しの間でもあなた様の妻になりたい、とおっしゃって……。お願いでございます! どうかお嬢様にこれ以上の悲しみは……どうか」


忍は再び肩を震わせ、咽び泣いた。


「ああ、もちろんだ。万里子のことは私が守る。生涯かけて、彼女の心の傷を癒やして見せよう」


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