愛を教えて

(1)危機

卓巳が万里子の実家から戻ると、邸内が妙にざわついていた。


「お、お帰りなさいませ、旦那様ぁ」


その鼻にかかった声を耳にした瞬間、卓巳の眉間にシワが寄る。

つい先日まで、最年少従業員だった十八歳のメイド、佐々木かんなだ。
卓巳が忍のもとに、行儀見習いに行かせたい筆頭である。



かんなは今年の三月に高校を卒業し、メイドとして就職した。皐月が実家の親戚筋から頼まれた少女で、身元は確かなので卓巳もとくに反対はしなかった。

そのかんなだが、なんと卓巳にひと目惚れ。そこを尚子に利用され、卓巳の部屋に忍び込んだ。
ここぞとばかり、天然のロリータ声で迫ったが、てきめん、卓巳の逆鱗に触れてしまう。

結果、『二度と部屋に入るな』と烈火の如く怒られた。


あずさの場合、何度追い払われてもへこたれないが、かんなは違う。
卓巳に対する憧れは吹き飛び、二度とチャレンジするつもりにはなれなかった。



浮島ももちろんそのことを知っていて、普段なら間違ってもかんなに卓巳の出迎えを任せることはないのだが……。


< 343 / 927 >

この作品をシェア

pagetop