愛を教えて

我慢の限界を超える寸前、執事の浮島が卓巳を迎えた。


「お帰りなさいませ、旦那様。お出迎えが遅れまして申し訳ございません」


スッと手で合図をしてメイドのかんなを下がらせる。

かんなはピョコッと頭を下げ、奥に引っ込んでしまった。やはり礼儀作法を仕込む必要があると思いつつ、卓巳の関心はすぐに万里子のほうに移る。


「何があった？　万里子はどうした」

「はい。実は――先月入りました、メイドの佐伯茜《さえきあかね》を覚えておられますか？」


万里子のことを尋ねて、なぜ新入りのメイドに話が移るのかわからない。
卓巳は不審に思いながらも答える。


「ああ、例の……十七の娘だろう」



茜の父親は老舗の和菓子屋を継いだ経営者兼菓子職人だった。

その父親が若くして亡くなり、同じく菓子職人である母親が子供三人を抱えひとりで頑張っていた。だが、無理がたたって体を壊し入院。店を任せられる者がおらず、営業ができなくなる。