愛を教えて
万里子の頬に太一郎の息がかかる。
ショールを茜に貸したため、身につけているのはカシミヤの薄いセーター一枚だけだ。

濃紺のセーターは万里子のバストラインを綺麗に浮き上がらせ、太一郎の目にくっきりと映し出した。


「……おくさま……」


茜の涙まじりの声に、万里子は勇気を奮い立たせる。


「早く行きなさい! すぐに誰かを呼んで……」


その瞬間、太一郎は万里子を部屋の奥に突き飛ばした。
彼自身はつかつかと茜に歩み寄る。


「お前はもういい。出てけっ! さぁ、さっさと出て行かねぇと犯すぞ」


茜は転がるように部屋から飛び出した。
それを見届け、太一郎はドアを閉めて後ろ手に鍵をかける。


「さぁ、これでふたりきりだ」


下劣に掠れる太一郎の声が、万里子の耳に響く。


(大丈夫。絶対に大丈夫。必ず誰かが助けに来てくれるわ……必ず)


万里子はゆっくりと立ち上がり、後ずさりしつつ……。

助けを信じて、心の中で自分を励ました。


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