愛を教えて
欺瞞と虚飾、欲望に塗り固められた藤原家に生まれた太一郎が初めて耳にするものだった。


初めて会ったあの日以来、万里子が眩しくて直視できない。


その意味が、このときの彼にはわからず。それは不幸にも、卓巳への憎しみにスライドされる。


(卓巳が憎い! あいつさえいなければ……。いや、さんざん跡継ぎだとぬかしながら、遺言書に俺の名前を残さなかったクソジジイも憎い! どいつもこいつも、俺をコケにしやがって!)


何が憎いのかわからなくなるほど、太一郎の心は憎しみに囚われていた。


「俺も“愛して”やるよ。身体の隅々までな……」


頬を歪めて太一郎は笑う。

そして、万里子に飛びかかった。


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