愛を教えて
助けてもらえるならなんでも言ってしまおう、万里子は一瞬そう思った。


でも……。
真実が明らかになれば、卓巳の心と名誉を傷つけてしまう。


(それだけは絶対にできない!)


「卓巳さんは……私を愛してくださいます。私の身体は、全部夫のものです! あなたとなんて、死んでもいや!」


万里子は震える膝に力を込め、馬乗りになる太一郎を蹴り飛ばした。
必死で起き上がるとドアに駆け寄り、ノブを掴んで鍵を開けようとする。

だが、鍵に触れた瞬間、後ろから髪を掴んで引っ張られた。

万里子は死に物狂いで抵抗するが……。


そのとき、万里子の左頬に衝撃が走る。
太一郎の手が彼女の頬を打ち、万里子は反動でソファまで飛ばされた。

口の中が切れ、血の味が広がる。

卓巳の愛情で塞がりかけた古傷が、太一郎の暴力でズタズタに引き裂かれた。


「いや……なぐらないで……たすけて」


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