愛を教えて

（3）誰がための怒り

卓巳が寝室のドアをぶち破る勢いで部屋に飛び込んだとき、万里子はベッドの上に身を起こしていた。

大きな音に、中にいた全員が振り返る。



「卓巳さん。お帰りなさいませ。お迎えに出られなくて……ごめんなさい」


それは、消え入りそうなほど小さな声だった。

左の頬が腫れている。唇の横に貼られたテープも痛々しい。右手の甲も腫れているようで、包帯が巻いてあった。


ベッドの横に立つ雪音が「お帰りなさいませ」と頭を下げ、続けて卓巳に報告する。


「安西先生に診ていただきました。骨に異常はないそうです。念のため、明日にでも精密検査を受けてください、と。……こんなことになってしまい、本当に申し訳ありません」


雪音はもう一度、深々と頭を下げた。


「違うの、卓巳さん。雪音さんのせいじゃなくて……あの……」


言葉が続かず、万里子の頬に涙が伝った。

彼女自身、泣くつもりではないのだろう。卓巳を見つめ、目を見開いたままだった。
涙の雫が滴り落ち、右手の包帯を濡らしている。


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