愛を教えて
「あの……ごめんなさい……私……ごめん、なさい。せっかくの、お誕生日なのに……」


――ぷつんと音を立て、卓巳の中で何かが切れた。


同時に体が熱くなり、ふつふつと全身の血が音を立てて沸騰し始める。

ほんの数時間前、二度と傷つけない、必ず守る、そう誓ったばかりだった。


卓巳はそのまま回れ右をして部屋から飛び出した。
行き先はひとつである。


「旦那様! 旦那様! この件につきまして、大奥様からお話がございます!」


執事の浮島が卓巳を追いかけながら大声で叫ぶ。


「旦那様。まずは落ちつかれて……どうか、奥様のそばにいらしてあげてくださいませ。旦那様っ!」


スピードを緩めることなく卓巳は一階に下り、渡り廊下を抜けて裏の棟に向かった。


「奥様が泣いておられます。どうか、旦那様が」

「太一郎は……部屋だな」


卓巳の耳に浮島の言葉など入る余地はなかった。


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