愛を教えて
豪胆で豪傑だった祖父に太一郎はそっくりだと尚子は周囲に吹聴する。

しかし、見た目こそ祖父に似ていたが、太一郎の内面は父とそっくりだった。
優柔不断で気弱、自分より圧倒的に弱いものとしか戦えない、負け犬以下なのだ。　

今このときも、万里子はそんな女じゃない、と反論したくてもできない。
悪意ではなく、勇気が足りないために。


「可哀相な太一郎さん。こんなに酷い怪我をさせられて、あたくし、皐月様に談判して参りますわっ！　そうでないと――なんですのっ！　失礼じゃありませんの、ノックもな、しに」


いきなりドアが開け放たれた。

そこには、怒りに目を血走らせた卓巳が立っていた。


「た、たくみくん。このたびは、本当に倅が申し訳ないことを」

「こ、今回のことは、さ、皐月様も交えて」　


敦と尚子は弾かれたように立ち上がった。

だが、そんなふたりには目もくれず、卓巳は部屋の奥に突き進む。


そして、ベッドに腰かけていた太一郎が立ち上がろうとした瞬間、勢いをつけて太一郎の顔に右の拳を叩き込んだ。


太一郎は壁まで殴り飛ばされ、フロアに置かれたスタンドライトにぶつかって倒れた。
ライトシェードや電球の砕け散る派手な音が室内に響き渡る。


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