愛を教えて
「落ちついてからでいいです。ちゃんと謝ってください。私だけじゃなくて、茜さんや、あなたが傷つけた人みんなに」


太一郎は床を見つめたまま震える声で言った。


「……なぐればいい……おれのこと……」

「殴られたら痛いでしょう? 私は、自分がされて嫌なことは、人にもしません」


その言葉に太一郎はハッとして顔を上げ、万里子を見た。

瞬間――卓巳が後方から万里子を抱き寄せ、太一郎のそばから引き離す。


「卓巳さん」

「僕が見逃しても、告訴されたらおしまいだ。まあ、刑務所に……いや、いっそ保健所にでも叩き込まれて処分されたほうが、社会のためになるんだろうが」


万里子の言葉を受け、卓巳は悪意を込めて太一郎を犬に例えた。

そんな卓巳の右手を、万里子は両手でそっと包み込む。
卓巳の手は、太一郎の血で汚れているだけでなく、彼自身の拳も傷ついていた。


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