愛を教えて

(4)ハッピーバースデー

卓巳が万里子を抱いて立ち去ったあと、邸内はしばらくざわついていた。

卓巳の姿が見えなくなった途端、尚子は『人殺しも同然』と卓巳を罵り始めたのだ。

そして太一郎のために、再び藤原家のホームドクターである安西が呼ばれた。


安西実《あんざいみのる》は四十代で、元々は彼の父親が藤原家のホームドクターだった。
高徳の援助で安西の父親は個人病院を開業。今から五年前、息子に引き継いだ。
安西は皐月の主治医でもあり、いつでも往診には応じてくれていた。


「骨折もなく、見た目の割に酷い怪我じゃなかったよ」


太一郎の様子を報告がてら、卓巳の手の傷を診ようと安西は部屋を訪れた。


「君は相当、喧嘩慣れしているな。若いころはやんちゃだったんだろう?」


そんなふうにからかわれたのが面白くなかったのか、卓巳は治療を断る。


「昔のことは覚えてませんよ」


ニコリともせず、安西に向かって答えたのだった。


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