愛を教えて
(8)攻防
「以上が契約条項です、ご納得いただけましたらサインと捺印をお願いします。ああ、拇印で結構ですよ」
仏頂面で座り続ける卓巳とは違い、宗は営業スマイルが板についている。その反面、メガネの奥の瞳は笑っていない。
まだ、万里子に対してストレートに表情を変える卓巳のほうが信用できる気がした。
だが、よく考えれば、その卓巳が万里子を脅し、偽装結婚を強要しているのだ。
『脅迫』と『信頼』は、間違ってもイコールで結べるものではない。
オーナーズ・スイートの雰囲気に飲まれていた万里子だったが、だいぶ落ちつきを取り戻す。
(このまま、何もかもいいなりなんて……)
万里子は頬に力を入れ、表情を引き締めた。
「こんな、一方的な条件はないと思います。あなたの許可なしでは実家にも帰れないなんて。しかも門限が八時だなんて、私は中学生じゃありません」
「大学の送り迎えはうちの車で行う。君は藤原グループの社長夫人になるんだ。当然のことだろう? 君は恥を知らない女性だからね。厳しく管理させてもらう。婚姻中に、他の男の子供を妊娠されては大変だ」
万里子は真っ赤になって息を飲む。
だが同時に、昨夜投げつけられた暴言の数々を思い出し、今度は怒りがこみ上げてきた。
「それに、この別項はなんですか? ご自分は遊び放題だなんて。これで仲の良い夫婦だと、周りは思うでしょうか? 離婚のときに、あなたが非難の的になると思いますけど」
「頃合いを見てそんな噂を流すつもりだ。社長のご乱行とでも週刊誌に書かせれば、ちょうどいい離婚理由になるだろう」
――マスコミは利用するだけで一切媚びない男。
万里子はそんな文章を思い出していた。
仏頂面で座り続ける卓巳とは違い、宗は営業スマイルが板についている。その反面、メガネの奥の瞳は笑っていない。
まだ、万里子に対してストレートに表情を変える卓巳のほうが信用できる気がした。
だが、よく考えれば、その卓巳が万里子を脅し、偽装結婚を強要しているのだ。
『脅迫』と『信頼』は、間違ってもイコールで結べるものではない。
オーナーズ・スイートの雰囲気に飲まれていた万里子だったが、だいぶ落ちつきを取り戻す。
(このまま、何もかもいいなりなんて……)
万里子は頬に力を入れ、表情を引き締めた。
「こんな、一方的な条件はないと思います。あなたの許可なしでは実家にも帰れないなんて。しかも門限が八時だなんて、私は中学生じゃありません」
「大学の送り迎えはうちの車で行う。君は藤原グループの社長夫人になるんだ。当然のことだろう? 君は恥を知らない女性だからね。厳しく管理させてもらう。婚姻中に、他の男の子供を妊娠されては大変だ」
万里子は真っ赤になって息を飲む。
だが同時に、昨夜投げつけられた暴言の数々を思い出し、今度は怒りがこみ上げてきた。
「それに、この別項はなんですか? ご自分は遊び放題だなんて。これで仲の良い夫婦だと、周りは思うでしょうか? 離婚のときに、あなたが非難の的になると思いますけど」
「頃合いを見てそんな噂を流すつもりだ。社長のご乱行とでも週刊誌に書かせれば、ちょうどいい離婚理由になるだろう」
――マスコミは利用するだけで一切媚びない男。
万里子はそんな文章を思い出していた。