愛を教えて

(5)女神に触れた夜

卓巳は満面の笑みでプレゼントを受け取ってくれた。

そして、ケーキもちゃんと食べてくれたのだ。厚さが二センチくらいだったとしても。

卓巳は甘いものが苦手だ。食後のデザートも滅多に食べない。一緒に暮らし始めてすぐにわかった。だから、たとえ一緒に作ったケーキでも、食べてくれるかどうか不安だった。


本当は、卓巳にキスして欲しかった。

でも、万里子の唇は汚れてしまった。

そんな自分に触れたら卓巳まで汚れてしまう。

熱いタオルで拭い、消毒液も使った。それでも万里子には充分だと思えない。せめてお風呂に入り、納得できるまで洗ってからでなければ……。

しかし卓巳から、精密検査を受けるまではと、入浴を禁じられた。


卓巳に知られないよう、ベッドに入ってから、万里子は必死で唇を擦った。

少しでも汚れを落としたい。唇がひりひりと痛み、皮がめくれた。それでも、綺麗にするためなら仕方がないと思えた。


『……万里子……』


卓巳が万里子を呼ぶ声が聞こえる。

振り返ると、突然、温かいものが唇に重なった。

離れた瞬間、万里子は目を開け……彼女の全身が凍りつく。


< 388 / 927 >

この作品をシェア

pagetop