愛を教えて
「万里子、目を覚ますんだ! 僕だ、大丈夫、僕がいる。万里子、必ず僕が助ける!」 


万里子の目はちゃんと開いている。

なのに、朦朧とした状態で万里子は泣き続けていた。


このまま、万里子がどこかに行ってしまいそうだ。卓巳は怖くて堪らず、どうにか万里子を引き止めたくて、息が止まりそうなほど強く掻き抱いていた。


「た、たくみさん……くるしい」

「あ、ああ、ごめん」


どれくらいの時間が過ぎただろう。

卓巳の耳に、小さくてもしっかりとした万里子の声が聞こえた。


万里子から少し身体を離し、卓巳は彼女の顔を覗き込む。

その瞳は焦点が定まり、卓巳をじっと見つめていた。


「万里子、何があった? 太一郎に何をされたんだ? もし、他にも殴られたところがあるなら、ちゃんと医者に診てもらわないとダメだ」


このとき、卓巳は万里子のベッドの中にいた。

しっかりと抱き締めるために、万里子の身体にぴったりと寄り添っている。同じベッドで眠ることはあっても、ここまで近づいたのは初めてだろう。


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