愛を教えて
万里子の半裸を目にし、そこに触れたい、口づけたい、と初めて思った。

卓巳は瞬きもせず、万里子の身体を見つめ続ける。


「あの……そんなに見ないで、ください」

「すまない。あまりに綺麗で……」

「綺麗じゃない、です。その……傷もあって」


万里子の声はどんどん小さくなり、語尾はかき消されていく。

言われて初めて、薄っすらと赤い線のようなものがあることに卓巳は気がついた。


「これは、どうしたんだ?」


本当に薄く長さも二センチ程度のものだ。だが、たとえ一ミリでも卓巳にとって許せないほど激しい感情を呼び覚ます。


「これを……太一郎がやったのか」


その怒気を含んだ声に、万里子は慌てた様子で釈明した。


「あの、当たったんです。掠ったっていうか。それだけです」

「この傷が痛むのか?」


(もう二、三発殴っておけばよかった)


卓巳は無意識で万里子の傷に触れた。

指先で白い肌をそっと撫でる。


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