愛を教えて
直後、万里子の身体がビクッとして強張り、卓巳は慌てて手を引いた。


「すまない、痛かったか?」

「いえ……あの……お願いがあるんですけど」

「なんだい? なんでも言っていいよ」


まさに“なんでも”そんな気分だ。
万里子の望みならなんでも叶えてやりたい。

そんな卓巳に万里子が願ったのは、


「あの……キス……してもらえませんか?」


卓巳は息を飲む。

一瞬、幻聴だと思ったくらいだ。


「今、キスって言ったのか?」


万里子はコクンとうなずく。


「太一郎さんに……唇を奪われて。何度も洗って、消毒液も使ったんですけど、落ちない気がして。ごめんなさい、ごめんなさい……あなた以外の人と」


そう言いながら、万里子は左手の甲で必死になって唇を擦る。


「よせ! 何をやってるんだ」


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