愛を教えて
刹那――万里子の手が卓巳の肩を強く掴んだ。


「卓巳さん……好きです」


その声は光り輝くような愛に満ちている。


「好きだよ。愛してる、万里子」


万里子の手が“拒絶”ではないとわかったとき、卓巳は、ガラス細工の壊れ物を抱き留めるかのように、優しく万里子を包み込んでいた。


熱を孕んだ切ない吐息が夫婦の寝室に充満する。


万里子の身体からは甘い香りが漂う。

どこもかしこも触れた場所はすべてが柔らかく、壊れそうに繊細だ。頬擦りするだけで、極上のシルクに包まる感触だった。


リビングのソファに押し倒し、同じ場所にキスしたときとはまるで違う。

あのときの万里子は冷たく固まっていた。それが今は、ほんのりピンク色に染まっている。それはあたかも、卓巳の唇を待つかのように。


肌に触れては、あらためて唇を重ねる。

万里子が嫌がってないことを確認すると、卓巳はまた胸元までを唇でなぞる。


何度も何度も同じ行為を繰り返し、それは少しずつ場所を変え、キャミソールの肩紐をずらしていった。


そのとき、卓巳はあることに気づき、弾かれたように身体を起こした。


< 397 / 927 >

この作品をシェア

pagetop