愛を教えて
そんな卓巳の様子に宗は目を丸くする。

怒りが大きいほど、声と態度に冷ややかさが増し、交渉相手を完膚なきまでに叩きのめす。宗は、凍てつくような鎧を身に纏うボスしか目にしたことがなかった。

万里子は見た目以上に頭の回転が速いようだ。

しかし、たかが女子大生である。これまでと違う、妙に冷静で大人びた表情の万里子の言動。見え見えの挑発に、こうもあっさり卓巳が乗るとは……。

唖然とする宗の前で、万里子は更に言葉を重ねた。



「何があってもそういったことにはならない。――だったら、なぜ別項の二が必要なんですか? これではまるで、私から求めて欲しい、そんなふうにも受け取れますよね?」

「宗、別項の二を外せ。あと、別項の三に追記だ、『婚姻継続の如何を問わず、契約書に記載された千早物産に対する融資を藤原卓巳は継続して履行する』以上だ」

「お待ちください、社長……」

「なんだ、お前も私がこの女の誘いに乗ると思っているのか!」

「いえ、社長はいかなる場合も沈着な方です。しかし、同じ部屋で夜を共にされる訳ですから、男と女の仲はいつどうなるか」

「別項の二は消して構わない。私は意志の弱い男ではない。こんな女に惑わされはしない」

「わかりました、変更します。――では、サインを」


斜線の上に捺印をされた契約書を見おろしながら、万里子は張り詰めた声で言った。


「もうひとつ、あります」


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