愛を教えて
大きな肩が小刻みに震えている。

まるで、小さな男の子が泣いているように見え、万里子の胸を締め付けた。


「卓巳さん、お願いだから、謝らないで」

「僕は、怖いんだ。あの母の血を引いている。反応すれば、母とでも関係しただろう。君のことだって……可能な状態だったら、抱いていたかもしれない。僕に太一郎を責める資格はない。できないからやらなかっただけだ。僕は罰を受けたんだよ。罪を犯さないように戒められたんだ」

「それは違うわ!」


卓巳は自らを卑下する。だが、彼はそんな人間でない。万里子は必死の思いで言葉を探した。


「罪を……犯したから、罰がくだるのよ。あなたは違う! あなたのおかげで、お母様は救われたんだわ。自らの心を壊してまで、必死で耐えたあなたを誰が罰するというの?」

「神はときに無情だ。公平でも公正でもない。正しく生きていても、酷い目に遭わないとも限らない」

「それは……」


卓巳が言っているのは万里子自身のことだ。

それに気づいたとき、万里子は胸が詰まり、言葉を失う。


「今まで、たくさん酷いことを言ってすまなかった。万里子、プロポーズの答えはもう一度考えてくれていい。僕には今日以上のことはできない。夫婦として、本当の悦びを教えてあげることは……」


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