愛を教えて
「必要ない」


卓巳は即答だった。

理由は、万里子は嘘をついてないからだと言う。 

卓巳は万里子を抱かない、と宣言していた。加えて、誤解と嫉妬があったとはいえ、酷い言葉で何度も万里子を傷つけてしまった。


「本当はずっと抱きたかった。最後まではできなくても、男として君の身体を愛したい。今夜のように少しずつ、僕たちのペースで愛し合う、というのはダメだろうか? 君が受け入れてくれるなら、そんな夫婦の形を築いていきたいと思っている」


卓巳の胸に抱かれ、万里子は幸せを噛み締めていた。

そのひと言ひと言に、万里子への愛が溢れている。


「嬉しい……こんなに幸せなんて夢みたい。昨日の夕方には、死ぬことも覚悟していたのに」

「ああ、そうだ。これだけは約束してくれ。たとえ、どんな辛い目に遭っても、死ぬことだけは考えないでくれ。もし、君が喉を突いて死んでいたら、僕は殺人者になっていた。そして、今日は僕たちの命日になっただろう」


太一郎を殺すだけじゃなく、卓巳は万里子のあとを追うと言っている。

万里子は卓巳の秘めた激情に、心を震わせた。


「私は、あなた以外の人は絶対に嫌です。だから、守ってください。卓巳さんとなら、乗り越えて行けるような気がするの」


そう言い終えたとき、万里子はそっと卓巳の唇にキスをした。


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