愛を教えて
なぜなら、卓巳は彼女を助けるために暴力をふるった訳ではない。言い方は悪いが、太一郎に報復しただけだ。褒められた行為ではなかった。

もちろん、万里子は嬉しかったが、それで卓巳の名誉が傷ついたり、怪我をしたりしては喜んではいられない。


「それに、奥様も素敵でした！」

「え？　私？」

「はいっ！　あの男を、犬呼ばわりですもの。メイドルームは大うけでした！」


万里子は思わず赤面した。そんなつもりではなかったのだが、たとえが悪かったかもしれない。


「随分失礼なことを言ってしまったわ。今度会ったら謝らないと」

「とんでもない！　あの男が謝るのが先ですよ。でも、私は土下座されたって許しませんから！　早くこのお邸から出て行ってくれたらいいのに」


茜は思い出したのか、身震いしながら怒りを露わにする。


「そうですね。そうしたら万里子様も枕を高くして眠れたでしょうに。逆恨みして、卓巳様の不在を狙って襲ってくるかもしれませんよ」


気づけば茜の後ろから雪音が来ていて、そんなふうに口を挟んだ。


「今のままで太一郎さんを追い出したら、自暴自棄になって何をするかわからないわ。もう誰も傷つけて欲しくないの。太一郎さんには本気で反省して欲しいから」


雪音は大きなため息をついた。


「そう簡単に、悔い改める男とは思えませんけど」


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